「うちのラグ、いくらになりますか」に三秒で答えられますか
火曜の午前十時。洗い場で手が濡れているところに電話が鳴ります。「二畳ぐらいのラグなんですけど、ウールで、犬が粗相をしてしまって。いくらぐらいになりますか」。答えるまでに十秒の沈黙が入り、そのあいだにお客様は「面倒な会社かもしれない」と考え始めます。結局「実物を見ないと何とも」とお伝えして、そのまま二度目の電話は来ませんでした。
料金表がないのではありません。頭の中にはあります。ただ、それが社長の頭の中にしかないと、電話を受けた人によって答えが変わります。同じ大きさの同じ素材が、月曜と木曜で違う金額になる。お客様がご近所同士だった場合、その差はいずれ知られます。カーペットやラグ、ソファのクリーニングは、金額の根拠が見えにくいぶん、この種類の不信がいちばん効いてしまう業種です。
ここでは、いくらにすべきかは書きません。地域も、水道光熱の条件も、人件費も、お客様の層も会社ごとに違うからです。書くのは、どう決めるかの手順です。単位の決め方、素材差の付け方、追加サービスの切り離し方、出張の扱い、値引きのルール、そして見直しの周期。この六つを自分の言葉で決めれば、電話口の十秒の沈黙はなくなります。
まず単位を決める — ㎡、畳数、一枚、人掛け
最初に決めるのは金額ではなく、何を数えるかです。カーペットは面積、ラグは一枚単位、ソファは人掛け、出張の作業は時間。どれが正しいということはなく、自社の仕事の重さがいちばんよく表れる数え方を選びます。面積で取るなら、採寸を誰がどこでするのかまで決めておかないと、現場で数字が揺れます。玄関先で巻いたまま目分量で測るのと、洗い場に広げてから測るのとでは、同じ品でも数字が変わります。どちらで測るかを決め、お客様にも先にお伝えしておくと、あとで金額が動いたときの説明が要りません。
日本では畳数でお伝えしたほうが通じるお客様も多くいらっしゃいます。六畳の絨毯、三畳のラグ。社内では㎡で計算し、お客様には畳数の目安でご説明する、という二段構えにしておくと、電話口の会話が滑らかになります。どちらか一方に統一しようとして無理をすると、結局どちらでも答えられなくなります。
単位が混ざるのはこの業種の宿命です。一枚の伝票の中に、面積で取るカーペットと、人掛けで取るソファと、時間で取る出張作業が同居します。カーペットクリーニング業の管理システムでは商品ごとに単位を選んで登録できるので、受付のときは選ぶだけになります。混ぜて構わない、と決めてしまうほうが現場は楽です。
素材と織りで変わる手間を、単価に織り込む
同じ大きさでも、ウールと化繊では作業がまったく違います。ウールは縮みと色落ちに気を遣い、乾燥にも時間がかかります。シルク混はさらに慎重になります。手織りの品は裏地の状態を先に確認しなければなりませんし、遊び毛の出るものは仕上げの手数が増えます。この差を「なんとなく高めに」で処理していると、高い日と安い日が生まれます。
手順としては、まず自社が扱う品を素材と織りで四つか五つの区分に分けます。分けすぎると受付で選べなくなるので、多くても五つです。次に、それぞれの区分で一枚あたりにかかる実作業の時間を、実際に測ります。勘ではなく、三件でも四件でも測ってみると、思っていたのと違う区分が必ず出てきます。時間の差が、そのまま単価の差の根拠になります。
汚れの程度をどう扱うかも決めておきます。ペットの粗相、長年の踏み跡、飲みこぼし。これらを素材の単価に含めるのか、追加として別に取るのか。含めてしまうと軽い汚れのお客様が損をし、別に取ると受付での説明が一手間増えます。どちらでも構いませんが、会社として一つに決めて、全員が同じ説明をできる状態にしてください。
追加サービスは基本料金から切り離す
シミ抜き、防ダニ・防汚加工、消臭、ペットの毛の除去。これらを基本料金に含めてしまうと、必要のないお客様にも高い金額を提示することになり、比較されたときに負けます。逆に全部を追加にすると、最初の金額と最終の金額が離れすぎて、不信を招きます。基本に含めるのは「どのお客様にも必ず行う工程」だけ、という線引きが分かりやすいと思います。
追加サービスは、名前と内容を先に文章にしておきます。「消臭」が何をすることなのか、社内で三人に聞いて三通りの答えが返ってくるようなら、まだ商品になっていません。何をして、どのくらい時間がかかり、どういう場合にお勧めするのか。この三行が決まってはじめて、受付の人が自信を持ってご案内できます。効果の言い方にも気をつけてください。仕上がりを保証するような言い方をすると、期待どおりにならなかったときに必ず戻ってきます。何をするかだけを書き、結果は約束しないほうが、長い目で見て会社を守ります。
ハウスクリーニングやエアコン清掃も請け負っている会社は、追加サービスの考え方が業種をまたいで共通します。ハウスクリーニング業の管理システムや、衣類やふとんもお預かりするクリーニング店の預かり管理のページも、組み立ての参考になるはずです。
出張・集配の距離と、最低受注金額
集配のある仕事では、移動が原価の大きな部分を占めます。片道二十分の先に一枚だけ取りに行って、往復で一時間。この一件が利益を生んでいるのかどうかを、一度きちんと計算してください。多くの会社が、遠方の小口で赤字を出しながら、繁忙期の忙しさでそれに気づいていません。
対策は二つあります。ひとつは地区ごとに集配の条件を変えること。もうひとつは最低受注金額を決めることです。最低受注金額は、断るための数字ではありません。「この金額までは他のお品も一緒にどうぞ」とご案内するための数字です。ラグ一枚のご依頼に、玄関マットとソファも足していただければ、一回の移動で三件分になります。同じ日に同じ方面へ二件三件とまとめられるかどうかで、その日の中身は大きく変わります。地区ごとに集荷の曜日を決めてしまう会社もあります。お客様には少しお待ちいただくことになりますが、その代わり集配の条件を良くできる、という説明の仕方であれば納得していただけます。
地区の考え方は洗車場・出張洗車の管理システムのページでも触れています。出張型の仕事はどの業種でも同じ壁に当たるので、隣の業種のやり方が案外そのまま使えます。
電話口で即答できる形にまとめる
ここまでで決めた内容を、一枚の表にします。縦に品目、横に素材の区分、交差するところに単価。追加サービスは別の小さな表。この二つが受付の机の上と、全員の端末の中にあれば、電話口で三秒で答えられます。表を作るときの基準は「入って三日目の人が読んで、迷わず答えを言えるか」です。
迷いが生まれるのは、たいてい例外の書き方が甘いところです。「特殊なものは要相談」と書いてあると、何が特殊なのかで人によって判断が割れます。要相談にするなら、要相談になる条件を三つまで具体的に書いてください。書けないなら、それは表に載せられる形になっていないということです。実物を見ないと判断できない品も当然ありますが、その場合も「お預かりしてから金額をお伝えし、ご了承をいただいてから作業に入ります」という手順まで決めておけば、お客様は不安になりません。
紙の表は必ず古くなります。単価を上げても、車の中の古い印刷物が残っていて、それを見た人が古い金額を伝える。この事故は珍しくありません。管理システムの上に商品と追加サービスを登録しておけば、直した瞬間に全員の画面が新しくなります。㎡、枚数、時間、パックのどの単価でも設定できます。
値引きを、人に依存させない
値引きそのものは悪くありません。ご近所の紹介、常連のお客様、まとめてのご依頼。現場の判断で少し引けることは、小さな会社の強みです。問題は、誰がいつどの案件でいくら引いたのかが残らないことです。月末に売上を見て、思っていたより少ない。理由を探しても、もう誰も覚えていません。
先に決めておくのは三つです。誰が値引きを判断してよいか。どこまでなら判断してよいか。それを超える場合は誰に確認するか。この三行を紙に書いて壁に貼るだけで、ばらつきの半分は消えます。あとは、引いた記録が案件ごとに残る仕組みがあれば十分です。ProTakip では誰がどの案件でいくら引いたかが履歴に残るので、月末に思い出す必要がありません。
法人のお客様と一般のお客様で単価を分けている会社は、値引きの扱いも分けてください。法人には最初から法人の単価があるのに、そこからさらに現場判断で引かれると、二重に安くなります。商品として別々に登録しておけば、受付のときに選ぶだけで正しい単価が入ります。
原価から逆算し、見直しの時期を決めておく
単価の根拠になるのは、洗剤と資材、水道光熱、人件費、車の燃料と維持、そして場所の費用です。これを一枚あたりに割り戻す作業は面倒ですが、一度やっておくと、値上げのご相談をするときに自分の言葉で説明できるようになります。「材料が上がりまして」ではなく、どの工程のどの部分が上がったのかを言えるかどうかで、お客様の受け取り方が変わります。
見直しは、思い立ったときではなく時期を決めます。繁忙期の直前は避け、閑散期の落ち着いたときに、年に一度か二度。前回からの原価の動きと、実際にかかった作業時間を並べて見ます。作業時間の記録が残っていると、この作業は一時間で終わります。残っていないと、また勘に戻ります。値上げをする年は、常連のお客様に先にお伝えする順番も決めておいてください。次のご依頼のときに黙って高くなっているより、一言先にあるほうが、はるかに受け入れていただけます。
入出金と未収の管理まで含めた回し方は集金と売掛金管理のガイドに、お客様への進捗のお知らせをどう組み立てるかは進捗連絡の運用ガイドにまとめました。管理の道具をこれから選ぶ段階であれば管理システムの選び方を先にお読みください。ProTakip は最初の3か月無料ですので、料金表を組み立てながら試してみることもできます。なお ProTakip は会計ソフトではありませんので、原価の計算そのものは別の仕組みで行っていただくことになります。
よくあるご質問
料金表は、お客様に公開したほうがよいですか。
公開すると問い合わせの質が変わります。金額を見て納得された方だけが電話をくださるので、成約までが短くなります。ただし公開する以上は例外の条件も併せて書いてください。書かずに公開すると、現場での追加のご説明が毎回もめる原因になります。
素材の区分は、いくつに分けるのが適当ですか。
多くても五つまでにしてください。区分が増えるほど正確にはなりますが、受付で選べなくなり、結局いちばん無難な区分ばかりが使われます。まず三つで始めて、実際に判断に困った品が出てきたときに一つ増やす、という進め方が現実的です。
最低受注金額を決めると、お客様を断ることになりませんか。
断るための数字にしなければ、そうはなりません。「この金額までは他のお品も一緒にお預かりできます」とご案内する形にすれば、一枚のご依頼が三枚になることのほうが多くなります。地区によって条件を変える方法もあります。
ProTakip に料金表を登録すると、何が変わりますか。
商品と追加サービスをあらかじめ登録しておけるので、受付のときは選ぶだけになります。㎡、枚数、時間、パックのどの単価でも設定でき、法人と一般で分けることもできます。値引きをした場合は、誰がどの案件でいくら引いたかが記録に残ります。
原価の計算や確定申告の書類も作れますか。
作れません。ProTakip は日々の受注、現場、入出金を回すための業務システムで、会計ソフトではありません。売上と経費の記録を期間や担当者ごとに集計して書き出すことはできますので、その材料を会計の作業にお渡しください。