入れたのに誰も使っていない、がいちばん高くつく
三月の終わり、事務所の机の上に分厚い操作マニュアルが置かれたままになっています。年明けに契約した管理システムのものです。導入の説明会には社長と事務の方が出ました。現場の職人二人は、その日も朝から現場に出ていて、後で聞くことになっていました。四月に入り、繁忙期が始まり、結局これまでどおり手帳と電話で回っています。
小さな会社にとって、いちばん高い失敗は月々の費用ではありません。半年を無駄にすることです。選び直すには、また比較して、また移行して、また現場に覚えてもらう必要があります。その体力が残っていないので、合わない道具を使い続けるか、紙に戻るかの二択になります。そして一度紙に戻った会社は、次に誰かが同じ提案をしても、現場が首を縦に振りません。「前も言われて、結局使わなかった」という記憶のほうが強く残るからです。最初の一回を外さないことに、思っている以上の価値があります。
ここでは、清掃、クリーニング、設備といった現場仕事の小さな会社が、業務システムを選ぶときに見るべき九つの点を挙げます。私たちは ProTakip を作っている側ですから、公平ではありません。ですので、はっきり書いておきます。九つのうち三つ以上で引っかかるなら、その製品は自社に合っていません。それが私たちの製品であっても、導入しないほうがよいと思います。
見るべき九つを、先に並べておく
比較を始める前に、この九つを紙に書き出してください。営業の方の説明を聞いていると、話の順番はその会社の得意な順になります。自分の順番を先に持っておかないと、いつのまにか相手の土俵で判断することになります。
- 圏外でも動くか(オフライン)
- スマートフォンだけで完結するか
- タグやラベルの印刷と、プリンターへの対応
- 権限をスタッフ単位で分けられるか
- データは自分のものか、いつでも書き出せるか
- 今のデータを移行できるか
- 現場が覚えることの少なさ(教育の手間)
- サポートの言葉と、返ってくる速さ
- 使わない機能の重さ
順番には意味があります。上の四つは、使えるかどうかを決める条件です。ここで落ちる製品は、機能がどれだけ多くても現場で止まります。下の五つは、続くかどうかを決める条件です。最初の一か月は気にならず、半年後に効いてきます。逆に言えば、半年後に効いてくるものは、体験の期間中には見えにくいということでもあります。
もう一つ、この九つに入れなかったものについても書いておきます。画面の見た目の新しさ、対応している業種の数、他社の導入事例。どれも判断の役に立ちません。見た目は三日で慣れますし、業種の数が多いことは自社に合っている理由になりません。事例は、自分と同じ規模で同じ地域の会社の話でなければ、参考になりようがないからです。
①圏外でも動くか、②スマートフォンだけで完結するか
洗い場、地下の駐車場、機械室、山あいのお宅の前。現場仕事は電波の悪い場所と縁が切れません。ここで動かない道具は、結局「後で事務所に戻ってから入力する」になります。そして後で入力される情報は、たいてい半分に減ります。確認の方法は簡単で、体験の期間中に機内モードにして、受付と状態の変更をしてみることです。それができない製品は候補から外して構いません。
次に、パソコンが要るかどうかです。事務所に一台あって、事務の方が座っている会社なら問題になりません。しかし社長が自分で車を運転して現場に出ている会社では、パソコンの前に座る時間そのものがありません。受付、状態の変更、入金の記録、料金の確認までがスマートフォンだけで終わるかを確かめてください。一部の操作だけパソコンが必要、という製品は、その一部が必ず滞ります。
業種ごとの現場の条件は、それぞれのページにも書いています。カーペットクリーニング業なら倉庫と洗い場、空調設備業なら機械室と屋上、電気工事・設備工事なら建築中の現場。自社に近い状況を思い浮かべながら試すのがいちばん確実です。
③タグとラベルの印刷、④スタッフごとの権限
お預かりする品がある仕事では、タグの印刷が事故を防ぎます。バーコードのタグが一枚ごとに付いていれば、取り違えも、行方不明も、探し回る時間もなくなります。確認したいのは、対応しているプリンターの種類と、それが現場で使える大きさかどうかです。事務所に据え置く大きな機械しか使えないのであれば、玄関先や車の中では印刷できません。Bluetooth で手のひらに載る機種が使えるかを聞いてください。
権限は、規模が小さいほど軽く見られますが、実際にはこの業種でこそ必要です。繁忙期に来てもらう短期の方に、会社全体の売上と全お客様の連絡先を見せる必要はありません。担当する仕事だけ、あるいは自分が入力した分だけ、という設定ができるかを確かめてください。人単位で細かく設定できるか、それとも役職ごとの大きな区分しかないかで、使い勝手はかなり変わります。
ついでに、辞めた方の扱いも聞いておいてください。退職した人の権限をすぐ止められるか、その人が入力した記録は残るか。ここが雑な製品は、いずれ困ります。記録は残り、権限だけ止まる、というのが正しい形です。スタッフの追加が招待コードのように簡単な形で行えるかも、併せて見ておいてください。人の出入りが多い業種では、一人増やすたびに販売元へ連絡が必要な仕組みは、それだけで負担になります。
⑤データは自分のものか、⑥今のデータを移行できるか
これは、契約するときではなく、やめるときのための質問です。お客様の名簿、過去のご依頼、入金の記録。これらは会社の資産であって、その製品の資産ではありません。いつでも自分で書き出せるか、書き出しに追加の費用や手続きが要らないかを、契約の前に必ず確かめてください。「解約時に対応します」という答えは、答えになっていません。
逆方向も同じくらい大事です。今お使いの名簿や、他社の管理ソフトに入っている過去の記録を持ち込めるかどうか。持ち込めないと、新しい製品の中では全員が新規のお客様になります。二年通ってくださっている方に「はじめまして」の対応をしてしまう、あれが起こります。移行の手順と、何が移せて何が移せないかは乗り換えとデータ移行のガイドにまとめました。
体験の期間中に、実際のお客様を三十件でも入れて動かしてみてください。空のデータで触った感触と、自社の実物が入った状態の感触は別物です。ここで「思ったより見づらい」と気づけるなら、その体験は十分に元が取れています。
⑦現場が覚えることの少なさ、⑧サポートの言葉と速さ
教育の手間は、費用として請求されないので見落とされます。しかし実際には、いちばん高い部分です。基準はひとつで、現場の方が日常的に触る画面が三つ以内に収まっているかどうか。担当の一覧、状態を変えるボタン、入金の記録。この三つで一日が回るなら、説明は十分で足ります。手順書を読まないと使えないなら、繁忙期には使われません。
導入の説明会に現場の職人が出られないことは、よくあります。だからこそ、出られなかった人が触っただけで分かる作りかどうかが重要になります。試すときは、いちばんスマートフォンが苦手な方に、何も教えずに一件だけ登録してもらってください。その様子が、半年後の現実です。詰まった場所を覚えておいて、販売元に「ここで手が止まりました」と伝えてみるのも有効です。返ってくる答えの中身と速さで、その会社が現場をどれだけ見ているかが分かります。
サポートは、言葉と速さの両方を見ます。日本語で聞けるか。返ってくるまでにどのくらいかかるか。土曜の朝に困ったときはどうなるか。契約前の問い合わせへの返信の速さは、そのまま契約後の速さだと考えて構いません。営業の返事は早いのに技術的な質問の返事が遅い会社は、導入後もその配分です。
⑨使わない機能の重さ
機能が多い製品は、比較表の上では強く見えます。会計も、在庫も、発注も、勤怠も入っている。しかし現場から見ると、使わない機能は邪魔でしかありません。入力の項目が増え、画面が深くなり、必須でない欄が必須のように見えます。結果として、現場は「よく分からないので触らない」を選びます。
正直に申し上げると、ProTakip にも在庫管理や発注の機能はありませんし、会計ソフトでもありません。決算や申告の書類は作れません。それは足りない点として数えていただいて構いません。ただ、私たちがそこを作らなかったのは、受注と現場と入金に絞ったほうが現場が動くと考えたからです。会社によっては、その割り切りが合わないこともあると思います。
判断の仕方としては、自社が一日に何回触る機能なのかを数えてみてください。毎日触るものが三つ、月に一度が二つ、年に一度が五つ。年に一度のもののために毎日の操作が重くなっているなら、その製品は合っていません。年に一度の作業は、多少不便でもその日だけ我慢すれば終わります。毎日の作業の不便は、一年で三百回分になります。この掛け算を頭に置いて比較すると、機能の多さが必ずしも有利ではないことが見えてきます。
試し方と、合わなければやめる勇気
比較表を眺めているより、二週間実際に使うほうが早く分かります。そのとき、全部を移行しないでください。一つの業務だけ、たとえば集荷から仕上がりまでの流れだけを、実際のお客様で回します。並行して紙も続けます。二週間経って紙を書かなくなっていれば、合っています。紙のほうが早いと感じているなら、合っていません。
試す期間は、繁忙期を避けてください。いちばん忙しい月に新しい道具を入れると、道具のせいなのか忙しさのせいなのか分からなくなります。閑散期に入れて、繁忙期を迎える。これが失敗の少ない順番です。ProTakip は最初の3か月が無料ですので、閑散期にゆっくり試して、繁忙期の入り口で判断していただけます。
合わなければ、やめてください。半年使ってから「もったいないから」と続けるほうが、はるかに高くつきます。判断の材料として、着信のときにお客様が分かる仕組みは着信時の顧客表示のガイドを、お客様へのご連絡の組み立て方は進捗連絡の運用ガイドをご覧ください。業種別の具体的な使い方はハウスクリーニング業やクリーニング店のページにまとめています。
よくあるご質問
九つのうち、どれを最優先にすべきですか。
自社の現場が電波の悪い場所を含むなら、圏外で動くかが最優先です。そこで止まる道具は他がどれだけ良くても続きません。電波の問題がない業態であれば、現場が覚えることの少なさを最初に見てください。使われない道具は、機能がゼロと同じです。
体験の期間に、どこまで本気で使うべきですか。
実際のお客様で、一つの業務だけを最後まで回してください。空のデータで画面を眺めるだけでは、判断できません。同時に紙も続けて、二週間後に紙を書かなくなっているかどうかを見ます。それが最も正直な答えになります。
会計や在庫まで一つにまとめたほうが効率的ではありませんか。
会社によります。事務の方が専任でいらっしゃるなら、まとまっているほうが便利な場合もあります。ただし現場の入力が重くなり、使われなくなる危険が上がります。毎日触る機能と年に一度の機能を分けて数えてから決めてください。
導入したあとで、データを持ち出せなくなることはありませんか。
それは契約の前に必ず確かめるべき点です。お客様の名簿、過去の記録、入金の記録を、いつでも自分で書き出せるかを聞いてください。追加の費用や手続きが必要だという答えであれば、その時点で慎重になったほうがよいと思います。
現場の職人が導入の説明会に出られません。
出られない前提で選んでください。説明を受けた人にしか使えない製品は、人が入れ替わるたびに同じ説明が必要になります。いちばん機械が苦手な方に、何も教えずに一件登録してもらう。それができるかどうかが、実際の判断材料になります。