乗り換えを決めた日に、いちばん怖いもの
十一月の初め。来年からは今の仕組みをやめよう、と社長が決めます。決めた瞬間に頭をよぎるのは、新しい画面の使い勝手ではありません。「十二年ぶんのお客様の名簿は、どうなるのか」です。事務所の机の引き出しには紙の顧客台帳があり、事務の方の端末には表計算の名簿があり、そのどちらにも載っていないお客様が社長の携帯の連絡先にいます。十二年のあいだに、名簿は三か所に分かれていました。分かれていることに気づくのは、たいてい移そうと決めたその日です。
移行が失敗する会社に共通しているのは、道具の選び方ではなく、この棚卸しを省いたことです。新しい仕組みにお客様を入れたあとで、「あの名簿には未収の欄があった」「携帯のほうにしかない番号がある」と気づくと、二度手間になります。しかも二度目は、通常の仕事をしながらの作業になります。一度目は「これから始めるぞ」という勢いがありますが、二度目にはそれがありません。棚卸しに使う半日は、あとから取り返せない半日です。
もうひとつ怖いのは、移行の当日に仕事が止まることです。止まっている間もお客様からは電話が鳴り、集荷の予定は入っています。このページでは、止めずに移るための段取りをご説明します。カーペットクリーニング業の管理システムのような預かりの仕事でも、クリーニング店の預かり管理でも、手順は変わりません。
移行の前に棚卸しする五つ
最初に決めるのは、何を持っていくかです。持っていくのは五つ。お客様のお名前、電話番号、ご住所、過去のご依頼、そして未収の残高です。この五つ以外は、いったん置いてください。全部を持っていこうとすると、準備だけで冬が終わります。十年前に一度だけご依頼をいただいた方の備考欄まで整えようとすると、そこで力尽きます。今も取引の続いている先から先に片づけてください。
五つのうち、絶対に落としてはいけないのは電話番号と未収の残高です。電話番号は、着信のときにお名前が出るかどうかを決めますし、未収は落とせばそのまま金額の損になります。ご住所と過去のご依頼は、多少欠けても営業は回りますので、優先順位を下げて構いません。過去のご依頼は、直近の一年か二年だけを持っていくという割り切り方もあります。それ以前の履歴は紙のまま保管しておいて、必要になったときに探せば十分です。
どこにデータがあるのかも、この段階で書き出しておきます。紙の台帳、表計算の名簿、他社の管理ソフト、社長の携帯の連絡先、集荷の予定表。五か所あるなら五か所と書く。書き出さないと、あとで必ずどれかを忘れます。ハウスクリーニング業の管理システムのように定期のご契約が多い会社は、契約の周期も忘れずに拾ってください。
電話番号の重複と表記ゆれ
移行で最も手間がかかるのは、まず間違いなく電話番号です。ハイフンの入っているもの、入っていないもの、市外局番から始まるもの、局番なしで書かれているもの。国番号から始まる書き方が混ざっていることもあります。人の目には同じ番号でも、仕組みの上では別のお客様になります。別々に登録されたお客様は、過去のご依頼も別々に分かれます。十年通ってくださっている方が、移行の翌日から新規のお客様として扱われる、という残念なことが起きます。着信のときにお名前が出ないのも、未収の残高が二つに割れて実際より小さく見えるのも、すべてここから始まります。移行の作業でいちばん時間をかけるべきなのは、この一列です。
作業としては、表記をひとつに寄せます。ハイフンを外して数字だけにそろえるのが、いちばん間違いが起きません。そろえてから並べ替えると、同じ番号が二行、三行と並びます。これが重複です。ご家族で同じ固定電話を使っているのか、単に二回登録されたのかを見て、後者だけをまとめます。まとめるときは、古いほうの記録を消すのではなく、新しいほうに寄せる形にしてください。過去のご依頼の日付が残っていれば、そのお客様といつから続いているのかが分かります。
携帯と固定の両方をお持ちのお客様も、どちらを主にするか決めておきます。着信のときにお名前が出るのは登録した番号だけですから、実際にかけてこられるほうを主に置いてください。この判断の効き方は着信時の顧客表示のガイドをご覧いただくと分かりやすいと思います。
ご住所の表記ゆれ
ご住所は、電話番号ほど厳密でなくても回りますが、揃っていると配車が楽になります。よくあるのは、丁目と番地が漢数字と算用数字で混ざっている、建物名が入っていたり抜けていたり、部屋番号が住所の末尾にあったり別の欄にあったりする、という三つです。どれも人間が読むぶんには困りませんが、地区ごとに並べ替えようとした瞬間に、同じ町が二つにも三つにも分かれて出てきます。
おすすめは、市区町村までを機械的にそろえて、それ以降には手を入れないことです。地区ごとの集計や配車で使うのは市区町村と町名までで、その先は現場が読めれば十分です。ここを完璧にしようとすると、名簿の整理だけで一週間が消えます。移行は、正しさを競う作業ではなく、明日から仕事が回る状態を作る作業です。八割そろっていれば、残りは使いながら直っていきます。
マンションの場合は、建物名を必ず残してください。同じ町名に似た番地が並ぶ地域では、建物名がないと現場が到着できません。逆に戸建てが中心の地区では、建物名の欄が空でも問題は起きません。地区ごとの性質に合わせて、力の入れどころを変えてください。
表計算から移す場合の、列の整え方
Excel の名簿からの移行に対応しています。準備としては、一行目を見出しにして、一件を一行にそろえます。一つの欄に「田中様(携帯もあり)」のように二つの情報が入っている状態が最も厄介ですので、列を分けてください。お名前、電話番号、ご住所、未収の残高、備考。この五列があれば十分です。
セルの結合は外します。見た目を整えるための結合は、機械から見ると空の行に見えます。同じく、途中に挟まっている小計の行や、色を付けただけの注意書きの行も外してください。人間には意味がありますが、そのまま取り込むとお客様として登録されてしまいます。取り込んだあとに空の行が並んでいたら、たいていこれが原因です。取り込む前に一度、上から下まで目で追っておくと安心です。
他社の管理ソフトをお使いの場合は、契約を解約する前に、必ず書き出しができるかを確認してください。解約後にデータを取り出せない仕組みは珍しくありません。書き出しの形式が分からない場合は、まず一部だけ出してみて、中身が読めるかどうかを見ます。ProTakip 側は、他社ソフトからの移行にも対応しています。書き出したものをお送りいただければ、こちらで中身を見て、どの列が何に当たるのかを整理してお戻しします。
時期の選び方 — 繁忙期を避ける
移行の時期は、内容よりも大切かもしれません。三月四月の引越しの季節、年末の大掃除の時期、梅雨明けの空調の需要期。会社によって山は違いますが、その山の最中に移るのは避けてください。うまくいかなかったときに、戻す余裕がありません。忙しい時期に手順が変わると、現場は必ず慣れたやり方に戻ります。そして一度そうなると、新しい仕組みは「使わなくなったもの」として片づけられてしまいます。一日に十五件の集荷が入っている日に、新しい画面の操作を覚えながら受付をするのは、誰にとっても無理な相談です。
狙うのは、山と山のあいだの二週間です。受注が薄い時期は、新しい手順を覚える余裕がありますし、間違えても取り返しがつきます。閑散期に人を減らしている会社は、逆に人がそろっている時期を選んだほうがよいこともありますので、ご自分の会社の山と人員の両方を見て決めてください。
ProTakip は最初の3か月が無料ですので、この期間を助走に使えます。二週間ほど並べて動かして、様子を見てから本格的に移る、という進め方ができます。導入前に何を確かめておくべきかは管理システムの選び方にまとめました。
一週間の並行運用と、その見切りの付け方
移行の当日にすべてを切り替えるのは、おすすめしません。一週間だけ、新旧の両方に入力してください。手間は増えますが、この一週間で「新しいほうに入っていない項目」がすべて見つかります。見つけるのが本番の一週間前か、本番のあとかで、痛みがまるで違います。前者なら「あ、この欄がないね」で済み、後者なら「もう古いほうは閉じてしまった」になります。この一週間は、データの確認というより、手順の確認だと考えてください。誰がどの場面で何を入力するのかが決まっていない状態のまま切り替えると、入力そのものが抜けます。
ただし、並行運用は必ず期限を切ってください。期限を決めないと、半年経っても両方に入力し続けることになります。これは最悪の状態です。手間が二倍のまま、どちらのデータも信用できなくなります。一週間、長くても二週間と決めて、その日が来たら古いほうを閉じます。
見切りの目安は、単純です。この一週間で、古いほうを開く必要が一度もなかったか。一度も開かなかったなら、もう不要です。二度三度開いたなら、開いた理由になっている機能が新しいほうにあるかを確かめます。集金と売掛金管理のガイドで扱う未収の一覧は、この確認で最も見落とされる場所です。
移行後のチェックリストと、教え方
切り替えたら、その日のうちに四つを確かめます。第一に、お客様の件数が移行前とおおよそ合っているか。第二に、未収の合計が合っているか。第三に、スタッフ全員が自分の端末でログインできるか。第四に、タグの印刷が実際に出るか。この四つが通れば、まず大きな事故は起きません。
件数がぴったり合わないのは、むしろ正常です。重複をまとめたぶん、移行後のほうが少なくなります。合わせるべきは未収の合計のほうで、こちらはわずかでも違うなら原因を探してください。金額の食い違いは、あとから必ず問題になります。移行の直後であれば、元の名簿がまだ手元にあるので照らし合わせられます。半年後に気づいた場合、元の仕組みはもう解約されていることが多く、確かめようがありません。
最後に、スタッフへの教え方です。一度に全部を教えないでください。初日に教えるのは、自分の仕事の一覧を開くこと、状態を変えること、入金を記録すること。この三つだけです。料金の設定も、報告書の出し方も、二週間後で構いません。料金表の作り方のような設計の話は、経営者と事務の方だけで先に決めておけば、現場は覚えることが三つで済みます。
よくあるご質問
表計算の名簿からデータを移せますか。
移せます。Excel の名簿からの移行に対応しています。一行目を見出しにして、一件を一行にそろえ、お名前、電話番号、ご住所、未収の残高、備考の列に分けてご用意ください。セルの結合や、途中に挟まっている小計の行は外しておいてください。
今使っている他社のソフトからも移せますか。
他社の管理ソフトからの移行にも対応しています。ただし、そのソフトからデータの書き出しができるかどうかを、解約する前に必ずご確認ください。解約したあとには取り出せない仕組みも珍しくありません。まず一部だけ書き出して、中身が読めるかを見るのが安全です。
移行の当日、仕事は止まりますか。
止めない段取りが取れます。一週間ほど新旧の両方に入力する並行運用の期間を作り、古いほうを開く必要がなくなった時点で閉じる進め方です。最初の3か月は無料でお使いいただけますので、この助走の期間を作りやすくなっています。
移行が終わったあと、何を確認すればよいですか。
四つです。お客様の件数がおおよそ合っているか、未収の合計が合っているか、スタッフ全員が自分の端末でログインできるか、タグの印刷が実際に出るか。件数は重複をまとめたぶん少なくなるのが正常ですが、未収の合計だけは必ず一致させてください。
スタッフに何から教えればよいですか。
初日は三つだけです。自分の仕事の一覧を開くこと、状態を変えること、入金を記録すること。料金の設定や報告書の出し方は、二週間ほど経ってからで構いません。一度に全部を教えると、結局どれも定着しません。