手が濡れているときに限って、電話は鳴る
水曜の午後二時。洗い場でホースを持ったまま、作業ズボンのポケットが震えます。手を拭いて取り出すと、画面に出ているのは十一桁の番号だけ。誰なのか分かりません。出れば「先週お願いした件なんですけど」と始まりますが、こちらは先週の誰なのか、まだ見当がついていません。お名前を伺い、台帳を探し、お待たせして、ようやく会話が始まります。この最初の一分が、毎日何度も繰り返されています。一日に十本受ければ十分、月にすれば数時間が、誰からの電話かを思い出すためだけに消えていきます。
出られない日もあります。乾燥機の音で震えに気づかない、両手がふさがっている、お客様のお宅で作業中でお出しできない。着信は履歴に残りますが、夕方に画面を開いたときには、その番号が新規のお問い合わせだったのか、いつものお客様だったのか、営業の電話だったのかが分かりません。かけ直すかどうかの判断がつかず、そのまま翌日に流れていきます。翌日にはもう、その番号は履歴の下のほうへ押し出されています。
着信時の顧客表示は、この一分と、この迷いをなくすための機能です。電話が鳴った瞬間、画面にお客様のお名前、ご住所、これまでのご依頼が重なって出ます。ProTakip では Android の端末でこの表示が動きます。カーペットクリーニング業の管理システムのように電話でのご依頼が中心の仕事では、一日のうちで最も回数の多い場面が、ここです。
名乗っていただく前に、用件が分かるということ
画面に「田中様・三丁目のマンション・先月ラグ二枚」と出ていれば、受話器を取った最初の一言が変わります。「田中様、いつもありがとうございます。先月のラグの件でしょうか」。お客様からすれば、自分が誰であるかを説明せずに済み、覚えられていたと感じます。この短い一往復の省略が、会話全体の温度を決めます。とくに、以前に一度だけご依頼をいただいて、そのまま間が空いていたお客様には効きます。覚えていたという事実だけで、二件目のご依頼になる確率が変わります。
効くのは印象だけではありません。用件の見当がついていると、こちらの準備が変わります。前回のご依頼が防ダニ加工つきだと分かっていれば、同じご希望かどうかを先に伺えます。前回のお支払いが未収のまま残っていれば、今回のお話の中で自然に触れられます。何も出ない状態で受けると、この判断はすべて通話が終わったあとになり、思い出した頃には切ったあとです。もう一度こちらからかけ直すのは、気が引けます。
ご訪問が中心の仕事では、この差がさらに大きくなります。ハウスクリーニング業の管理システムや電気工事・設備工事の管理システムのように、現場から現場へ移動しながら電話を受ける仕事では、車を止めて調べる時間そのものがありません。画面に出ているかどうかが、そのままお受けできるかどうかになります。
知らない番号は、新規のお客様かもしれない
登録のない番号からの着信には、その旨が表示されます。つまり、目の前で鳴っているのが新しいお客様である可能性が高い、と分かった状態で受けられます。身構え方が違いますし、通話の終わりに「念のためお名前とご住所をお伺いしてもよろしいですか」と言い忘れることも減ります。
そして、通話が終わったその画面から、そのまま新規のお客様として登録できます。お名前とご住所を入れれば、次にこの番号から着信があったときには、もうお名前が出ます。あとで登録しよう、と思った番号は、たいてい登録されません。忙しい日の着信履歴は、翌朝には意味を失っています。その場で終わることに価値があります。お名前とご住所さえ入っていれば、次にご依頼をいただいたときには受付が数十秒で終わり、二度目からは常連のお客様として扱えます。
新規のお問い合わせは、季節にかたまって来ます。空調設備の管理システムで触れたように暑くなった数日に集中する仕事もあれば、引越し業者の管理システムのように三月と四月に一年ぶんが来る仕事もあります。その数日に取りこぼした番号は、翌年まで戻ってきません。
折り返しの取りこぼしを減らす
受けられなかった着信をどう扱うかは、多くの会社で決まっていません。決まっていないので、気づいた人がかけ直したり、誰もかけ直さなかったりします。表示があると、この判断が単純になります。お名前の出た着信はいつものお客様なので急がなくてよく、番号だけの着信は新規かもしれないので、その日のうちにかけ直します。
かけ直したかどうかを記録に残すことも、あわせて決めておきます。ProTakip では通話のあとに顧客カードへ一言残せますので、「不在、明日の午前にもう一度」と書いておけば、翌朝に誰が見ても分かります。頭の中だけに置いた「あとでかけ直す」は、三件目で必ず落ちます。夕方に一度、その日かけ直せていない番号だけを見る時間を五分とっておくと、落ちる件数がはっきり減ります。
取りこぼした一本がいくらぶんだったのかは、誰にも分かりません。だからこそ静かに損をします。一日一本、月に二十本の取りこぼしが、そのうち何件かのご依頼だったと考えると、ここは手当てをする価値のある場所です。ご連絡の全体の組み立てはお客様への進捗連絡の運用ガイドと合わせてお読みください。
現場のスタッフの端末でも、同じ表示が出る
電話は事務所にだけ鳴るものではありません。集荷の担当者にも、ご訪問中の職人にも、お客様から直接かかってきます。ProTakip では、権限を与えられたスタッフの端末でも同じ表示が出ますので、現場で受けた電話でも、お客様のお名前と前回のご依頼が見えている状態で話せます。
これは、経営者が一人で電話を抱え込まなくてよくなる、という意味でもあります。社長の携帯にすべての着信を集めている会社は珍しくありませんが、その形は社長が現場に入った日に止まります。現場のスタッフが同じ情報を見て受けられるなら、電話番を分散できます。社長が一日の半分を電話に取られている会社では、その時間がそのまま人件費として消えています。受けられる人が二人になるだけで、一日の組み立てが変わります。
一方で、全員に出す必要はありません。短期のアルバイトの方の端末にお客様の一覧を丸ごと表示させる理由はないはずです。誰の端末に顧客情報を出すかは、次の項でご説明する権限の話になります。ここは導入前に必ず決めておいてください。あとから絞るより、最初に絞っておくほうが、社内で説明しやすくなります。
圏外でも動く理由 — 端末の中に顧客を持つ
この機能で一番大事なのは、電波がなくても動くことです。着信の瞬間に、その番号が誰なのかを毎回インターネットの向こうへ問い合わせに行く作りだと、地下の駐車場やビルの裏手、山あいのお宅の前では表示が間に合いません。しかも、電話がつながっている最中は通信が細くなることがあり、まさにその瞬間に必要な情報が届かなくなります。
ProTakip はお客様の一覧を端末の中に持っています。着信があったときに参照するのは端末内の情報なので、圏外でも、電波が一本しか立っていなくても、同じ速さで表示されます。新しいお客様を登録したり、ご住所を直したりした内容は、電波のあるところで自動的に端末側へ届きます。
二枚のSIMを挿した端末で通話中に通信が切れる、という現象も、この作りなら影響を受けません。現場で使う道具は、条件のよい日だけ動いても意味がありません。悪い条件で動くかどうかで選んでください。雨の日の地下駐車場、鉄骨のビルの裏手、電波の弱い倉庫の奥。そういう場所でこそ、電話は鳴ります。この考え方は管理システムの選び方にも書きました。
Android の機能です — 正直に書いておきます
着信時の顧客表示は、Android の端末でのみ提供しています。iOS では、この形の表示は提供していません。端末の仕組み上、着信の瞬間に別の画面を重ねて出すことが Android でしか行えないためです。ここは工夫で埋められる差ではありませんので、正直にお伝えしておきます。
ProTakip 自体は Android と iOS の両方で動きますので、iOS をお使いの方も、受注、状態の管理、集金、顧客カードといった機能はそのままお使いいただけます。着信の表示だけが Android 限定です。事務所や集荷の担当者だけ Android の端末にする、という分け方で運用している会社もあります。会社の代表番号を受ける端末が一台か二台に決まっているのであれば、その端末だけを Android にそろえるという考え方で十分に効果が出ます。
あわせてお伝えしておくと、ProTakip に電話の自動応答の機能はありません。通話を録音する機能もありません。行うのは、鳴った電話が誰からのものかを画面に出すことと、そのあとの記録を顧客カードに残すことまでです。
権限と、最初の設定の考え方
顧客情報を誰の端末に出すかは、便利さではなく責任の話です。ProTakip では役割ごとに権限を分けられますので、経営者と事務の方には全体を、現場のスタッフには担当する範囲をというように設定できます。着信の表示についても、必要な方の端末だけで有効にするのが基本の形です。
設定そのものは難しくありませんが、端末側でいくつかの許可を出していただく必要があります。着信を検知するための許可、画面に重ねて表示するための許可、そして電池の節約設定から除外する指定です。三つ目は見落とされがちで、これを忘れると、しばらく使わなかったあとに表示が出なくなります。端末の機種によって設定の場所の呼び方が少しずつ違いますので、一台目を設定するときにその手順を控えておくと、二台目からが楽になります。
導入の初日は、実際にご自分の携帯からお店の番号にかけて、表示が出ることを確かめてください。出ない場合の原因は、ほぼこの三つの許可のどれかです。スタッフの端末を増やすときも、一台ずつ同じ確認をします。ご訪問の当日連絡や折り返しの運用と組み合わせると、進捗連絡の運用全体がひとつながりになります。
よくあるご質問
iPhone でも着信時にお客様の名前が出ますか。
出ません。着信時の顧客表示は Android の端末でのみ提供しています。端末の仕組み上の制約で、iOS では同じ形の表示を行えません。ProTakip の他の機能は iOS でもお使いいただけますので、着信の表示が必要な方だけ Android の端末をお使いいただく形になります。
電波の届かない場所でも表示されますか。
されます。お客様の一覧は端末の中に保存されていますので、着信のときに通信を行いません。地下の駐車場でも、山あいのお宅の前でも、電波のよい場所と同じ速さで表示されます。新しく登録したお客様は、電波のあるところで自動的に端末側へ反映されます。
登録のない番号からかかってきた場合はどうなりますか。
登録がない旨が表示されますので、新規のお問い合わせである可能性が高いと分かった状態で受けられます。通話が終わったあと、その画面からそのまま新しいお客様として登録でき、次回からはお名前が表示されます。
スタッフ全員の端末にお客様の情報が出てしまいませんか。
権限で分けられます。経営者と事務の方には全体を、現場のスタッフには担当する範囲だけを表示する、といった設定が可能です。着信の表示も、必要な方の端末でのみ有効にしてください。短期のスタッフの端末に一覧を丸ごと出す必要はありません。
通話を録音したり、自動で応答したりできますか。
できません。ProTakip に通話の録音機能と自動応答の機能はありません。行うのは、鳴っている電話が誰からのものかを画面に表示することと、通話のあとの内容を顧客カードに記録として残すところまでです。